
「すみ分け」
1993年の畑作物被害は689万円、例年の倍近くに達した。
追い上げによる猿害防止に努めてきた村も、万策尽き、30余匹の
一群の捕獲を申請した。サルの行動範囲が拡大したこともあるが、
この年は山の実りが悪く、その分、作物の被害が増えた結果でもある。
村人も手をこまねいていたわけではない。畑の周りに柵を巡らし、
自衛策をとってきた。村が以前設置したカモシカ防護柵に網を絡ま
せたもの、何枚も板を打ち付け漁網と組み合わせたもの、古い
ジュウタンとゴザをつなぎ合わせたもの。それぞれ智恵を絞った
苦心の柵が並んだ。人間の出入り口さえも分からないものがほとんどだ。
しかし、「効果は?」と聞くと、「それでも、サルは侵入する」。
「カモシカ相手ならいいが、サルにはわずかでもすき間があればダメだ」
という言葉が返ってきた。村は典型的な中山間地域で、山と畑が隣接する。
最近、耕作者の高齢化が進んで放棄される畑が増え、そこにスギが
植林される例が多くなった。スギは成長が早いので、土地の有効活用
でもあるが、立木が密集する。逃げ込まれると姿が見えなくなり、
追い上げの効果が半減する。くず野菜を畑の周辺に投げ捨て、結果的に
サルたちのえさ場になっている例も目立つ。
ただ捨てるのはもったいないので、サルかカモシカでも食べるだろう、
という村人の心情が災いしている。
くず野菜でもサルたちは魅力的な食べ物だ。追い上げの一方で、
こうしたことが続く限り、畑からの切り離しは難しい。
村は94年4月、国の指導などを受け、侵入防止のための電気柵を
試験的に設置。効果ありとみて、半年後の10月に捕獲申請を正式に取り下げた。
電気柵を使った「すみ分け」による共生が本格的に始まることになる。

つづく
いそやまたかゆき