
「秋色の恋」
下北の秋は、色の鮮やかな紅葉という派手さはない。ブナやミズナラの黄葉のなかに、
モミジの赤、ヒバの緑が所々にちりばめられ、渋い、大人向きの秋である。
その頃、森の中では、ニホンザルたちが恋の季節を迎える。かれらは群で生活してい
るが、特定の相手がいるわけではない。また、この時期、群に属さないハナレザルと呼
ばれるオスも加わるので、メスの気を引くためにかれらは様々な駆け引きを考える。
ある日、群の近くに新しいオスが三頭現れた。一頭と二頭組みに分かれている。群の
メスに接近するための作戦であろうが、二頭の方はちょっと貧弱な印象を受ける。単独
の方は、まだ七、八才の若さだが、どことなく立ち居振る舞いが堂々としており、なかなか
目を引く。おまけに顔立ちも端正。
当然、群のオスたちはすぐ気づいて、四頭がつるんでやってきた。尾を反り返し、
毛を逆立てて威嚇する。
「ガッ、ゴウッ」という脅しの声で、二頭組の方はあっという間に姿を消した。予想
通りである。しかし、単独の方は違った。逃げる素振りも見せず、四頭のオスをにら
み続ける。いわゆる「眼(がん)の飛ばしあい」である。とはいえ、状況は多勢に無勢。
一気に飛びかかれば状況は火を見るより明らかなのだが、どういうわけか動かない。
そのうち、様子がおかしくなってきた。四頭のオスの方が目をそらし始めた。落ち
着かなくなり、ついには尾を下げ、後ずさりをはじめた。信じられない決着がついた。
勝利を確信したかれは、攻撃する素振りもなく、余裕さえ見せる。
雲が切れ、秋の陽光が差し込んできた。頭上にトップライトがふりそそぎ、森が
秋色に輝いた。瞬間、かれに一種の風格が漂い、思わず、シャッターにかけていた
指先に力をこめた。
周りに目を転じると、遠くから、群のメスたちがじっと様子を眺めていた。恋の
お膳立てには、十分すぎる演出だったことだろう。
文責 いそやまたかゆき
2000.10
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