
今世紀最後のトピックス
「静寂のクリスマスツリー」
十二月の声を聞くと、あちこちにジングルベルのメロディーが流れ、
デパートの玄関などには大きなクリスマスツリーが飾られる。賑やか
な雰囲気はいいが、何かと気ぜわしい気分にさせられる。
ある冬の日、見事な風景に出会った。昨夜来の雪は下北の冬には
珍しく、風がともなわず、ひとつぶひとつぶが枝先にまでゆきわたり、
スギの林がクリスマスツリーになっていた。ジングルベルはもちろん、
潮の音も聞こえず、巷とは打って変わって静寂そのもの。時の流
れも消えそうで、油断すると吸い込まれうな雰囲気も醸し出している。
ふ と、気配を感じた。ゆっくり見直すと、一頭のニホンカモシカ
が立っている。気がつかなかった。
双眼鏡で覗くと、口元は動いているが体や首は静止し
ている。はんすう中であろうが、まるで剥製。カメレオンの保護色は
有名だが、この光景はそれ以上。慣れない人なら見落としてしまうくらい風景に溶け込んでいる。
しばらく見入ってしまい、カメラを取り出すことも忘れていた。
ようやく、自分の気持ちを取り戻して、三脚にカメラを据えてシャッターを切った
が、全然手応えを感じない。いままで、森の中の瞬間、瞬間を切り取
ってきた私には、未知の世界の不思議な体験だった。
帰り道、ジングルベルを流しながらクリスマスセールを連呼している宣伝カーとすれ違った。
あまりのも大きな音だったので、カモシカ
の耳にも届いているかも知れないと想いながら、さっきのファインダーの
風景をイメージしてみた。が、やはり出来上がりに自信が持てなかった。
ところが、現像後の五枚のコマには、あの時の静寂のクリスマスツリー
が見事に再現されていた。森の中のふところは限りなく深い。
文責 いそやまたかゆき
2000.12
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