
北限に生きる・ツツジ物語。
「土に還る」
再びツツジを保護せざるを得なかった。とは言うものの、人の手から餌を貰うと、
警戒心を薄れさせ、自分で餌を採る野生さを失うことが懸念される。また、餌付け
時代を経験しているツツジの場合は、群れに戻しても人を頼って人家付近に帰って
くる事が考えられる。さらに、以前から発生している人家に侵入する特定のサルと
混同され、人々の不安をかきたてることも考慮しなければならず、困惑のなか、時が過ぎた。
3月13日、南から春の便りが聞かれるようになり、再びツツジを群れに戻すこ
とになった。オリに入れたまま、雪投げ用のソリにツツジを乗せて山の中腹まで運び
上げた。周りに仲間のサルの顔がちらほら見える。ツツジに反応はなく、オリを解放
しても出てこない。強引に追い立てると渋々歩きはじめた。が、仲間のサルのいる方
ではなく、私たちに向かってくる。私はツツジの両肩を掴んで押し止めた。ツツジも
力をこめる。ツツジの体温が手袋を通して伝わってくる。何度かやりとりしている
うちに、観念したかのように斜面を上り始めた。写真を撮ることさえ忘れ、ただ見送った。
あの後ろ姿は忘れない。
ツツジが小尾根の上にたどり着いたとき、群れのサルたちは斜面に広がり、ササの葉
や冬芽を食べていた。雪の上に座り込んだツツジは、しばらくぼうっとし、失った時間
を取り戻しているかのようでもあった。若いサルが様子を見にきた。2才くらいのコドモ
も木の陰からのぞき見る。ツツジは反応しない。今度はスズランと名付けた、ツツジ
の孫にあたるメスザルがやってきた。しばらく見つめ合っていたが、ツツジが「ゴゥッ」
と一声を発した。瞬間、大丈夫かも知れない…、そんな気持ちになった。スズランは特に
反応もみせず斜面を降りていったが、ツツジは後を追うように斜面を下りはじめた。
足下がおぼつかず、途中、何度も滑り落ちたが、まもなく、サルたちが点在している
ササの中に姿を消した。
3日後、ツツジは死亡した。春がそこまできているような暖かな日だった。ツツジは、
長年生活した、数々の思い出が埋まっている土に還っている。
終わり
いそやまたかゆき