
最後には全員が水の中に入ってジャブジャブと景気のいい水音。まるで人間の子供達のプール遊び。しかし
すぐ飽きて、さっさと水から上がって森の中に駆け込んでいった。
ところがその後、「ナズナ」と名前をつけている若い母ザルがアカンボウを従えてやってきた。そして、
親子が縁に並んで座って水面を眺めはじめた。ここまでの様子はこざると同じだが、目つきが違う。素早く
目線を移動させる。ナズナは、こざるたちの様子を観察していて、水の中に食べ物を見つけたと思ったのだ。
確信に満ちた目だった。
しばらくしてナズナは意を決したように足を入れ始めた。ところが手違いが起きた。水の中に立ったと
同時に、アカンボウが母親の背中に飛び乗ったのである。ナズナはバランスを失った。「あっ、転ぶ」。
しかし、母親は持ちこたえた。しっかり踏ん張ってナズナは水の中を歩きはじめた。目は水中に釘付け。
しかし悪いことは重なるもの。バランスが崩れたままアカンボウが掴まっているので、ナズナが歩くたびに
アカンボウがずり落ちる。ナズナも歩きづらそうだが、ひたすら水中探査。とうとうアカンボウはナズナの
お尻まで落ちた。そして、「キッ、キッ」と鳴いた。ようやく母親は諦めた。不自由な足を引きずりながら
戻った。アカンボウは降ろされるやいなや森の中に飛び込んだ。ナズナはアカンボウを見送った後、何度も
水面を振り返ったが、あきらめたようにとぼとぼと森の中に姿を消した。
私は水の中を探ってみたが食べ物らしいものは何ひとつ見あたらなかった。私たちにとっての新しい風景は、
サルたちにとっては新しい餌場という事になるのかも知れない。しかしそれにしても、ナズナは水の中に何
を見ていたのだろう。妙に心に残っている。